概要
Cohere North は、全社向けの AI ワークスペース(チャット、社内ナレッジの検索、ノーコードのエージェント、スケジュール実行の自動化)で、ベンダーのクラウドではなく自社の環境の中で動かします。Cohere は North を自社の VPC、自社サーバー、ハイブリッド構成、または完全にネットワークから隔離した air-gapped 環境にインストールします。North にはマルチテナントの SaaS 版はありません。最も近い選択肢は Model Vault で、Cohere が専用の隔離された推論環境をホストし、North のアプリケーション自体は自社側に残ります。デフォルトでは Cohere の Command モデルで動作し、モデル・検索・埋め込みの各コンポーネントは、すでにライセンスを持つモデルに差し替えられます。
North は 2025 年 8 月に一般提供を開始しました。North 2 は 2026 年 10 月 5 日にリリースされ、セッションをまたいで保持されるエージェントのメモリ、共有エージェント、再利用可能なスキルとライブラリ、そしてトークン支出の管理機能が追加されました。管理機能には、ユーザー単位・グループ単位のクォータ、組織全体の上限、上限に達する前のアラートしきい値、モデル・ユーザー・部門別の利用状況エクスポートが含まれます(VentureBeat)。Cohere は SOC 2 Type 2、ISO 27001、ISO 42001 の取得を掲げています。
提供元の会社そのものが変わりつつあります。Cohere は 4 月に計画を発表したのち、2026 年 9 月 16 日にドイツの Aleph Alpha と合併契約を締結しました。統合後の会社は Cohere の名称を引き継ぎ、本社はトロントとベルリンの 2 拠点、Schwarz Group が 5 億ユーロの資金を拠出し、報道によれば統合後の評価額は 200 億ドルです。取引には規制当局の承認がまだ必要です(SiliconANGLE)。Cohere の昨年の売上は約 2 億 4,000 万ドルで、その大半は North ではなくモデルの API 利用によるものです。
オペレーションのスタックに登場する理由
- データを米国の SaaS テナントに出せない。 銀行、保険会社、公的機関、防衛関連のサプライヤーは、ChatGPT Enterprise や Copilot を機能審査ではなくデータ所在地の審査で不合格にすることがよくあります。North はネットワークの外に何も出さないため、この審査を通過できる数少ないフル機能のワークスペースです。RBC は Cohere と共同で North の銀行向け構成を開発し、Dell は Dell AI Factory のスタックに North を組み込んで販売し、Bell Canada はカナダの政府機関や企業向けにソブリン AI として再販しています。
- バックオフィスのキュー向けエージェント。 Cohere が最もよく文書化しているユースケースはサポートのトリアージです。CoreWeave の事例では、North のエージェントがチケットを振り分けて回答を下書きし、エンジニアが 1 件ずつ承認します。90 日間の導入後、平均解決時間は 4〜8 日から 2〜5 日に短縮されました。人事規程の照会、経理の月次決算チェックリスト、契約条項の検索も同じパターンです。
- コネクタと MCP。 標準コネクタは Gmail、Outlook、Slack、Salesforce、SharePoint をカバーし、North 2 で OneDrive、Exchange、Jira、Linear、Notion、GitHub が加わりました。それ以外は独自の MCP サーバーか SDK を経由します。
実際の価格
Cohere は North の定価を公開しておらず、セルフサービスのトライアルもなく、インフラ・利用量・サポート・カスタマイズに応じてデプロイ単位で見積もります。調達ガイドによると、North の契約には最低利用コミットメントと年次の精算(true-up)が含まれます。予算は 2 つの項目に分けて計画してください。
- ライセンス(交渉で決まる)。交渉の基準として、Microsoft 365 Copilot を 1 ユーザーあたり月 30 ドルで 500 シート、つまり年間約 18 万ドルを目安にしてください。North は全社プログラムとして設計・販売されており、数百ユーザーを下回る規模ではコミットメントが見合うことはまれです。
- インフラ(自社でホストする場合は自社負担)。Cohere のドキュメントでは、Command A+ の必要リソースを B200 GPU 1 基または H100 GPU 2 基としています。H100 を 2 基、1 GPU 時間あたり 2〜3 ドルで借りると、冗長構成を除いて年間おおよそ 3万5,000〜5万3,000 ドルです(推計)。Model Vault を使えば推論を Cohere 側に移せます。公開料金は小規模な埋め込みインスタンスで月 2,000 ドルからで、生成モデルの料金は公開されておらず個別見積もりです。
最適なケース
従業員 1,000 人以上の規制業種の企業 — 銀行、保険、医療、公共部門、防衛サプライチェーン — の CIO やオペレーション責任者で、プロンプト、文書、エージェントのアクションを自社ネットワークまたは自国の法域内に留める必要があり、運用を担うプラットフォームチームを持っている場合。
単一チームの AI プロジェクトには向きません。また、セキュリティ審査で米国ホストのテナントがすでに認められているなら、購入する理由はありません。
代替ツールとの比較
Microsoft 365 Copilot と ChatGPT Enterprise は導入実績が最も大きい 2 製品です。ベンダーがホストするテナントがデータ審査を通るなら、どちらかを選んでください。どちらも数週間で展開でき、Copilot はすでに Microsoft 365 の契約に含まれています。「このデータをネットワークの外に出してよいか」の答えが「いいえ」なら North を選んでください。
Claude Enterprise は、企業のエージェント業務で最も急成長している競合です。エージェントとモデルの品質が決め手で、クラウドでのホストが許容されるなら Claude を選んでください。
Langdock と Mistral は欧州のソブリン性を重視した選択肢です。EU に拠点を置くベンダーとシート単位の価格で十分なら Langdock を、モデル開発元そのものが欧州企業である必要があるなら Mistral を選んでください。air-gapped または顧客自身が運用するインフラと、交渉で決める全社プログラムが必要なら North を選んでください。
North でも重すぎる場合は、オープンソースでセルフホスト型の Onyx が、自社ハードウェア上でチャットと検索をわずかなコストでカバーします。ただし North のガバナンス層やベンダーサポートはありません。
注意点
- 合併はまだ完了していない。 Aleph Alpha の統合後、ロードマップ、サポート体制、契約主体が変わる可能性があります。対策: 解約権付きの支配権変更(change-of-control)条項を入れ、ロードマップの約束はスライドではなく発注書に具体的に明記させてください。
- 不透明な価格と true-up。 最低コミットメントと年次精算が重なると、パイロットが 2 年目に想定外の請求に変わることがあります。対策: true-up に固定の上限率を設け、初年度のコミットメントを終了基準付きの範囲を絞ったパイロットに紐づけ、自社でホストしない場合は Model Vault の料金を書面で確保してください。
- 支出上限に達したときの挙動が文書化されていない。 タスクの途中でトークン上限に達したエージェントがどうなるか、Cohere は公表していません。対策: パイロット中にスケジュール実行の自動化をあえて上限まで動かして確かめ、基幹システムに書き込む処理については、アラートしきい値をハード上限よりかなり低く設定してください。
- 運用は自社の責任。 セルフホストでは、GPU の調達、アップデート、稼働率の確保がプラットフォームチームの仕事になります。対策: 契約前に担当者と GPU の確保を確定させるか、Model Vault を標準として予算化し、アプリケーションだけを自社でホストしてください。
- コネクタの数は Copilot や Glean より少なく、ヘルプデスク向けコネクタ(Zendesk、ServiceNow)は公式には挙げられていません。対策: 最初のエージェントが読み書きすべき 5 つのシステムを洗い出し、パイロット中にそれぞれについて動作するコネクタか MCP サーバーを用意させてください。本当に必要なのが多数の権限付きソースを横断するエンタープライズ検索なら、Glean を検討してください。