概要
Vector(vector.co)はコンタクト単位の ABM プラットフォームです。Web サイトを訪問し広告をクリックした個人を識別し、同社が「30+ contact-level signals」と呼ぶシグナルでスコアリングし、その結果できた購買委員会のオーディエンスを広告プラットフォームへ同期します。これにより、アカウント全体ではなく名前のわかる個人に広告を配信できます。売り込みの矛先は既存の大手で、ホームページには「Trusted by 400+ revenue teams to replace 6sense & Demandbase.」とあります。
2026 年の 2 つの追加機能によって、単なる訪問者識別ツールではなくなりました。1 つは LinkedIn の入札を 15 分ごとに調整する入札エージェントで、プランに応じて 1〜5 個使えます。もう 1 つが Vector MCP です。SignalFire と HubSpot Ventures が主導した 1,000 万ドルのシリーズ A と同じ 2026-05-13 に公開され、ChatGPT、Claude(Desktop、Code、Web)、Gemini CLI に、LinkedIn Ads のパフォーマンスと匿名解除されたサイト訪問者のアクティビティへの読み取り専用アクセスを提供します。Showpad を傘下に持つプライベートエクイティの Vector Capital や、Coinbase が買収した Solana のトレーディングアプリとは別物です。
RevOps スタックに入る理由
- 識別とアクティベーションが 1 つの契約で完結します。 Vector は匿名トラフィックを企業と個人(氏名、役職、勤務先メール、閲覧ページ)まで解決し、同じ人物を LinkedIn、Google Customer Match、Reddit、X、ChatGPT Ads にネイティブ連携で送ります。Meta と Microsoft Advertising はベータ、Snap、StackAdapt、The Trade Desk、TikTok は CSV エクスポートです。RB2B は識別だけ、Influ2 は持ち込んだリストに広告を出すだけです。Vector はその両方を行います。
- Web サイト以外のシグナルも使えます。 転職、経営幹部の採用、G2 Buyer Intent、LinkedIn 投稿へのエンゲージメント、CRM の商談ステージ変更、そして Gong(ベータ)、Fathom、Sybill の通話トランスクリプトが、同じスコアリングに入ります。
- MCP は読み取り専用だからこそ役に立ちます。 キャンペーン別の月末ペーシング、エンゲージメントが落ちている広告、広告に反応したのにフォームを一度も送信していない人物などを Claude に尋ねられます。入札、予算、キャンペーンの変更は引き続き Vector 内で行います。
- CRM への書き戻しはネイティブです。 HubSpot と Salesforce のレコードを作成・更新し、商談を読み戻し、Slack のアラートを AE に送ります。Clay、Zapier、Snowflake はネイティブコネクタではなく Webhook 経由で接続します。
価格の実態
価格はシート数無制限のプラットフォーム年間契約 1 本で、月間ユニークサイト訪問者数と月間広告費の総額という 2 つの数値で規模が決まります。どちらか上位のプランに該当するほうがプランを決めます。
- Growth:年額 36,000 ドル(月額約 3,000 ドル):月間訪問者 25,000 人まで、月間広告費 25,000 ドルまで、入札エージェント 1 個。SAML/SCIM の SSO と DPA はこのプランに含まれません。
- Scale: 訪問者 100,000 人、月間広告費 100,000 ドルまで、入札エージェント 3 個、SSO と DPA 付き。価格は非公開です。
- Enterprise: 訪問者 250,000 人、月間広告費 250,000 ドルまで、入札エージェント 5 個。価格は非公開です。
2 つのカウントルールのせいで、購入者は想定より早く上位プランに移ります。トラフィックは「not just the ones Vector identifies」、つまり識別されたかどうかに関係なく全ユニーク訪問者を数え、広告費は「including campaigns you run outside Vector」、つまり会社全体の広告費を数えます。訪問者識別とカスタム AI リサーチはクレジット枠を消費しますが、インテントとスコアリングは消費しません。メディア費は別途広告プラットフォームに支払います。サードパーティの掲載情報には月額 399 ドルからの旧 Reveal・Target プランがまだ残っていますが、現在の価格ページが公開しているのは Growth の年額だけで、月額プラン、無料プラン、トライアルはありません。
市場全体で見ると、Vector は訪問者識別ツール(RB2B の有料プランで月額 159〜499 ドル)とアカウント単位のスイートの中間に位置します。後者では 6sense の契約が通常 6 万〜12 万ドルから始まり、Influ2 の中央値の購入者はメディア費を除いて年間約 60,000 ドルを支払っています。
最適なユーザー
月間サイト訪問者が約 5,000〜25,000 人、有料ソーシャルの広告費が月 5,000〜25,000 ドルの企業で、米国市場に注力する B2B マーケティング・デマンドジェネレーションの責任者。6 桁ドル規模の ABM スイートを買わずに、自社トラフィックと広告クリックから得た名前のわかる個人にリターゲティングしたいチームです。判断基準は、訪問者に応じてオーディエンスを変えたい稼働中のキャンペーンを 3 つ以上挙げられるかどうかです。挙げられるなら Growth はパイロットする価値があります。
向いていないのは、購入者の大半が米国外にいるチームと、月間広告費が約 5,000 ドル未満のプログラムです。後者では 36,000 ドルの最低価格が、それで動かすメディア費を上回ってしまいます。
代替ツールとの比較
- vs 6sense / Demandbase(ABM プラットフォームの 2 大勢力)。サードパーティのリサーチに基づくアカウント単位の予測インテント、グローバルなカバレッジ、エンタープライズ規模のオーケストレーションが必要ならこちらを選びます。ターゲットアカウントがすでに決まっていて、その中の個人にリーチし識別することが目的なら Vector を選びます。費用は両社の典型的なエントリー契約のおよそ 3 分の 1 から半分です。
- vs Influ2。 どちらも名前のわかるコンタクトを狙います。CRM 由来のネームドアカウントリストをジャーニーとセールスケイデンス(Salesloft、Outreach)で回すなら Influ2 を選びます。実際に訪問・クリックした人からオーディエンスを作りたく、公開価格を求めるなら Vector を選びます。
- vs RB2B または Warmly(急成長中の訪問者識別の新興勢力)。Slack への識別通知だけが目的で、予算が年間 6,000 ドル未満なら RB2B を選びます。その訪問者を自動で広告オーディエンスにしたくなったら Vector を選びます。
- vs AdRoll ABM。 より低い最低価格でアカウント単位のディスプレイリターゲティングをするなら AdRoll、個人単位の LinkedIn・Meta オーディエンスなら Vector を選びます。
注意点
- アイデンティティグラフは設計上、米国限定です。 Vector のセキュリティページには「geofenced to only operate in the United States」とあり、「collect or purchase any non-US data」は行わないと明記されています。米国外の訪問者は個人単位の識別の対象外です。対策: デモの前にアナリティクスで国別の内訳を確認してください。ターゲットトラフィックのうち米国が約 70% 未満なら、その分だけ識別の価値を割り引くか、アカウント単位の代替ツールの見積もりを取ってください。
- コンプライアンスの責任はあなたの側にあります。 マッチングはデバイスフィンガープリントを、パブリッシャー由来のハッシュ化メールのグラフと照合する仕組みで、顧客は「solely responsible for implementing Vector’s technology in a compliant manner」とされています。これにはプライバシーポリシーと同意バナーの更新も含まれます。対策: 推奨されているプライバシーポリシーの文言を法務にレビューしてもらい、スクリプトは同意管理プラットフォームの背後で動かし、価格表で「含まれない」とされている Growth では DPA を書面で確認してください。
- マッチ率は公開されていません。 Vector は企業単位のマッチを「are the norm」、コンタクト単位のマッチを「a smaller, higher-intent slice」と説明するだけで、数値を示していません。対策: 自社トラフィックで 2 週間のパイロットを行い、年間契約に署名する前にコンタクト単位のマッチ率を契約上の指標として求めてください。
- 広告費の総額でプランが決まります。 Vector が一切関与しないキャンペーンの広告費もカウントされます。対策: 両方の数値を今四半期ではなく来年のメディアプランで試算し、プランの上限を契約に盛り込んでください。そうすれば予算を 1 回増やしただけでサイクル外のアップグレードを強いられることはありません。